”今年の”秋酒
2022.09.06
CATEGORY:お酒
先日、OA機器の業者さんが来社された時の事。
業者さんが酒屋に出入りしている中でふと疑問に思ったことがあったらしく、色々と質問を受けた流れでプチ酒談議に花が咲いた。
その中で出てきたのが、「年度」に関する話題である。
BJK:「ほら、ワインの世界って、〇〇年度モノって表記があるけど、日本酒ではあんまり見たことがないでしょ?」
業者:「おお、そう言えば、そうですね。」
一部の日本酒には年度表記があるが、日本酒の”製品”は「明示的な年度表記が無い」ことが基本である。
※.いわゆる”製造年月”表記は別のハナシ。
とは言え、毎年天候は違うわけだから、稲穂の出来が違うのは当たり前であり、それは毎年の酒の出来が違う事に繋がる。
この酒の出来具合のブレを可能な限り杜氏のウデ(と調合で)でカバーしようというのが、通常の流れである。
だが、「なるべくブレを少なくした」からと言って、ブレが消えて無くなった訳ではない。
毎年必ず、程度の差はあれど、ブレは生じるのだ。
そうした意味からすれば、年度表記を行うと言うのは暗に「ブレがある事を隠さない」という捉え方もできよう。
去年は去年の、今年は今年の味がある。
アタリ年もあれば、あまり思わしくないデキの年もあろう。
だが、それが「自然から作られたものを口にする」事であり、「製品だけれど、でも、自然から作られたものであることを忘れてはいけない」という事にも繋がるのではないか?
2022年はまだ記憶に新しく、劇的な猛暑の夏であった。
白馬錦の秋酒を貯蔵する「アルプス湖洞貯蔵庫」は山の中に掘られたトンネルの中で熟成を重ねた酒であるが故、猛暑の影響は「少ないハズ」だ。
だが、「少ないハズ」と「ブレが無い」はイコールとならない。
白馬錦・秋の純米吟醸「アルプス湖洞貯蔵 瓶囲い秋熟」は年度表記こそ無いものの、一度瓶に封入した後は酒そのものに手は加えていないお酒なので、実質「年度表記モノ」である。
では、2022年の猛暑を超えて、熟成を重ねた今年の「秋熟」はどのような味わいに仕上がっているのか?
”今年のブレ”は生じているのだろうか?
さっそく中身に迫ってみたい。
■ アルプス湖洞貯蔵 瓶囲い秋熟 ■
原料米:信濃大町産美山錦 精米歩合:55%
アルコール度数:15.2% 日本酒度:+-0
大筋において、外観や(目指した)酒質、お値段、貯蔵場所に昨年モデルとの差は無い。
あるのは単純に「天候の差」だけである。
まずは冷蔵庫で軽く冷やした「秋熟」を一献。
吟醸香と米の甘みが合わさった味の立ち上がりは例年通りではあるが、今年の特徴は何と言っても、そのトロみであろう。
いわば甘さで出来たシャボン玉が全ての要素を包んでいるかのような、まろ味であり、トロ味とでも形容できるような質感がある。
こう述べてしまうと「重量級」というイメージがつきまとうが、予想に反し優しく、「柔らかい」と感じる。
この一歩引いた柔らかさにこそ、「女酒」と形容される白馬錦らしさがある。
それでいて薄さや水っぽさは皆無で、しっかりとした味わいが広がる。
熟成を重ねたことで、後には少しばかり熟成感も感じるが、これは季節とキャラクター、ある程度「味のある食事をする」ケースが想定されると思えば、むしろ必要な要素といっても良いだろう。
日本酒の世界ではやや敬遠されがちな「熟成感」であるが、味全体の方向性とマッチしているので、本商品においては十分、「季節感の演出」という範囲に収まっている。
味全体のニュアンスは過去のものから逸脱することなく、しかし、今年ならではの味を伴って、美味しく仕上がったと感じられた一杯となっている。
”2022年の” 白馬錦・秋の純米吟醸「アルプス湖洞貯蔵 瓶囲い秋熟」は9月9日(金)、発売です。
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