大町の水のこと
2022.11.18
CATEGORY:大町のこと
【大町の水】
小さい頃から当たり前に飲んでいる大町の水道水。蛇口をひねると夏でも冷たく美味しい水が出てきます。先日、「大町の水源探検ツアー」に参加する機会があり、水道課の方に色々と教わってきましたのでご紹介します。
■地球上の飲料水
地球上で私たちが飲むことのできる水の量は2.5%、塩分濃度が高く飲めない水は97.5%と言われます。飲める水の2.5%には氷河・流氷も含むので実際は1%ほどです。私たちが普段飲んでいる水がいかに貴重なものかがわかります。
この貴重な1%のお水には種類があります。
①地表水―1%中の7割を占め、川・ダム・湖から水を取って、飲めるよう綺麗にして提供されているもの。
②伏流水―1%中の2割。地下水の比較的浅い所を通っている水を吸い上げて飲めるようにしたもの(井戸水)。
③湧水―1%中の1割。雨や雪が地中奥深く何層もの地層に浸み込み、数十年という年月をかけ清浄な水として育まれ、地上に湧水として湧き出たもの。
■水の生まれる町「信濃大町」~居谷里水源~
大町市の西側には標高3,000m級の山々がそびえ、雄大な北アルプスの麓の自然豊かな場所です。また、信濃川水系の最上流部に位置し、北アルプスの麓から豊富な水が湧き出て、まさに「水の生まれる地」です。
大町市の水道水の水源は、全てこの湧水を利用していて、この湧水は必要最低限の消毒処理を行うだけで水道水として利用できるため「家の蛇口をひねればナチュラルミネラルウォーターが飲める」地域なのです。
大町市には主に4つの水源があり、その中で最も古い「居谷里水源」は1924年・大正13年から給水が開始されました。
居谷里水源では1日に6,000トン(25Mプール約17杯分)を取水しています。実際はおよそ12,000トン湧き出ていますが、半分は農業用水として使われています。
湧き出たお水は居谷里水源の中に6か所ある「集水桝」と呼ばれるところに集められ、流量計室を通り、配水池へと運ばれます。配水池までは道路の下を通って自然の勾配を利用して送られ、さらに配水池から各家庭へも同様に送られています。これを「自然流下方式」と言い、動力を使用したポンプなどは一切使用していないそうです。
配水池は水源から送られた水を貯めておく施設のことで、生活サイクルに合わせて水量を調整する「時間変動調整機能」や「非常時対応機能」を担っています。
河川や沢水を利用する一般的な水道施設は安全な飲用水として供給するため、濁りや細菌類などを取り除く濾過するための浄水場を経由するのですが、大町の水源は取水する源水がきれいなので大きな浄水場は経由せず、そのまま配水池へとやってきます。
居谷里水系は三日町配水池の他に4つあり、配水先は本通り東側一帯と、池田町との境、社地区一帯4300戸に配られています。
■大町の水は超軟水!
おいしい水とは、味を良くする成分が含まれているもので、何も不純物を含まない水は無味無臭です。飲み水に味があるのは純粋な水ではなく、何かしらの鉱物が溶け込んでいるからです。
美味しい水に含まれる成分は、カルシム、マグネシウム、ナトリウム、カリウムなどのミネラル成分で、量が大すぎると苦みや渋みが増し、適量だと濃厚な味がすると言われます。厚生労働省の「おいしい水研究会」がまとめた調査結果によると「おいしい水」の要件は次の通りです。
居谷里の水は、ほぼこの要件を満たしています。
硬水・軟水はミネラルの含有量で決まります。
水の硬度が決まる要因は川の長さです。石や岩からミネラル分が溶け出すため川の長さで硬度が変わり、日本は世界的にも川が短いため軟水が多く、欧米は川が長い分鉱物が溶け出し硬水が多いと言われます。居谷里水源は信濃川水系の最上流部に位置するため、ミネラル含有量が少なく超軟水なのです。そのためおいしい水の要件の「蒸発残留物(ミネラル含有量)」が時に届かないこともあるとのこと。
ちなみにミネラルがたくさん含まれていると、お肉などに含まれているたんぱく質に作用してお肉が固まり旨味が溶け出さない特徴があり、欧米では水だけで煮込むのではなく、油や生クリーム、ワインなどの調味料と一緒に煮込む料理が発達しました。
日本のお水はミネラル分が少ないため旨味が溶け出しやく、お米を炊くのも煮物を作るのも、水をたくさん使って煮込む料理が多いのはそのためです。
【白馬錦の仕込水】
■酒造りと水
日本酒成分の約80%は水です。そのため水の品質が日本酒の味わいに大きな影響を与えます。日本酒造りに使用されるお水は「酒造用水」と言われ、直接日本酒の成分にかかわる「醸造用水」と、瓶詰などに使用される「瓶詰用水」に分けられます。この酒造用水は使用する米の総米重量のなんと20~30倍必要になります。
■酒造用水と水道水の基準
酒造用水は水道水の水質基準値内であることはもちろん、さらに厳しい基準があります。特に鉄・マンガンは日本酒にとって悪影響を及ぼすため、水道水よりも厳しい規定になっています。白馬錦でも毎年醸造に使用する水を公的機関で成分分析をして管理をしています。
■硬水と軟水
ミネラル分を多く含む水を「硬水」、少ない水を「軟水」と呼び、硬度を目安に区分しています。現在日本では、一般的にアメリカ硬度が用いられていますが、酒造業界では長くドイツ硬度が使用されています
硬度は日本酒の味わいにも大きな影響を与え、一般的に軟水で仕込むとまろやかで繊細な味わいになり、硬水で仕込むと酸が強めで引き締りスッキリとした辛口の味わいになると言われます。
■白馬錦の仕込水
白馬錦では、ほぼ全ての酒造用水に「居谷里水系の水」を使用しています。
この居谷里の水の硬度は1.0mg/dlで、超軟水といえます。白馬錦共通の特徴である、まろやかで優しい味わいは、この水の性質が大きく関わっています。
また、「氷筍酒」というお酒には、黒部ダムの破砕帯の水、赤沢岳(あかさわだけ)富山県中新川郡立山町と長野県大町市にまたがる後立山連峰からの湧水を汲みに行きトラックで運んで仕込水としています。この水の硬度は4.8mg/dlと中硬水にあるため、キリリとしたミネラル感を感じる辛口の味わいのお酒になります。
一つの地域で、いくつかの水源があり、違う性質のお水を仕込水として使用できるのはまれなことです。
■大町の湧水に感謝!
大町市内の水田横に通っている用水路には、いつもきれいな冷たいお水が流れています。これが当たり前だと思っていたのですが、別の県では河川などからポンプで水を汲み上げ供給しているそうで、用水路にいつも水が流れていることはなく、場合によっては必要量を確保できないこともあることを聞きました。
お酒をつくる、お米をつくる、生活するにも、お水はかかせません。
今回、水源ツアーに参加し、とても貴重な水資源を豊富に使わせていただいていることを実感しました。これらの「水」は、人の手でつくることのできない、土地の宝です。この自然を未来に残していくため、今自分ができる取り組みをコツコツと積み重ねていこうと思いました!
【大町に来たら水の飲み比べをしてみよう!】
ミネラルウォーターには種類があるってご存じですか?
水源ツアーに参加した際、種類の違う水を飲み比べる機会がありました。普段何気なく飲んでいた水に種類があることと、味わいの違いに驚きました。
それ以来「この水はどんな水だろう」と、裏表示を見ながら水を買うようになりました。
■ミネラルウォーターの分類
ミネラルウォーターには下記の4種類に分類されています。
●ナチュラルウォーター
特定の水源から採取した水に「沈殿」「濾過(ろか)」「加熱殺菌」処理のみを加えミネラル分を飛ばした水。
●ナチュラルミネラルウォーター
ナチュラルウォーターのうち鉱化(※水が流れるうち、地層中のミネラルが地下水に溶け込むこと)された地下 水を原水としたもの。最も自然の状態に近い、いわゆる「天然水」のこと。
●ミネラルウォーター
複数の水源から水を取りペットボトルにしたり、人工的にミネラル分を調整した水
●ボトルドウォーター
水道法の範囲内で作った水。
■ピュアウォーター
作る過程でミネラルや不純物を限りなく取り除いた水。純粋なH2O。
適度なミネラルは「味わい」を与えますが、近年の研究では、水のおいしさはミネラル成分よりも溶存酸素(水中に溶けこんでいる酸素ガス)とクラスター(水の分子集団)の形によるとも言われます。
安全性や信頼性に優れているので、赤ちゃんのミルクなどを作るのに適している水。
■大町にある水メーカー
大町にはたくさんの水メーカーの工場があります。
●サントリー天然水北アルプス信濃の森工場
●アルプスウォーター
●AW・ウォーター株式会社
●エアウォーター信濃大町工場
ひとくちに水と言っても、水の種類、メーカー、水源によって味わいも用途も異なります。
それぞれの違いを感じながら、楽しんでみてはいかがですか。
writing by :薄井真弓
